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三−3−2 意見書

 

原告    佐木理人
被告    大阪市

 右当事者間の御庁平成十一年(ワ)第三六三八号損害賠償請求事件について、原告は以下のとおり意見を陳述致します。

平成十一年 六月二八日

         右原告訴訟代理人
         弁護士    竹下義樹
         大阪地方裁判所 第十七民事部 イ係    御  中

一 本件訴訟が問題提起するもの
 原告代理人は、本件訴訟の第一回口頭弁論に当って、一言申し上げます。
 さて、本件訴訟は、大阪市営地下鉄の駅ホームから視覚障害者である原告が転落した事故について、駅ホームの点字ブロック及び防護柵の設置・管理に欠陥があったこと、駅ホームにおける駅員の配置が十分でなかったことを問題とするものです。
 近年、我が国の鉄道、空港等の公共交通機関において、視覚障害者に危険を知らせ、誘導するための点字ブロックは相当程度普及してきています。
 このことは、視覚障害者の社会参加や自立を実現する上で、大きな前進であります。現に、点字ブロック等の普及により、多くの視覚障害者が公共交通機関を利用することが可能になっており、視覚障害者が移動の自由を獲得し、社会参加が進みました。
 このように、視覚障害者の公共交通機関の利用が多くなればなるほど、交通機関の側では、点字ブロックの敷設方法、防護柵等の設置、音声による誘導、ホームドアの新設、駅員の配置などに十分配慮し、視覚障害者の事故を防止するため、安全対策に万全を尽くす責任が一層重くなるといわねばなりません。
 ところが、現状においては、大阪市営地下鉄を始めとする鉄道において、視覚障害者の安全に対する十分な配慮がなされているとは到底いえません。
 そのため、点字ブロックが設置されていても、視覚障害者がホームから転落したり、列車に接触したりする事故が続発しているのです。平成四年に実施された調査においても、視覚障害者のうち二割以上が駅ホームからの転落事故を経験しているとの結果が出ており、死傷者も後を絶たず、視覚障害者にとって駅ホームは極めて危険な状況にあるといわざるを得ません。視覚障害者は、設備が不完全なまま放置された鉄道を利用する場合、いつも死と隣り合わせにあるといっても過言ではないのです。
 にもかかわらず、視覚障害者が駅ホームから転落した場合、それを教訓とした駅ホームの安全対策が速やかに講ぜられることは残念ながらほとんどありません。幼児が池や川に転落する事故が発生した場合は、直ちに柵の設置等の措置がとられるのに、視覚障害者の場合は、「視覚障害者だから仕方がなかった。本人の不注意であった」として済まされているのではないでしょうか。

二 最近の新聞記事から
 平成十年十一月十五日の朝日新聞に、東京立川市でマッサージ業を営む全盲の人の話が紹介されていました。その人は、三年前、JR中央線の東小金井駅でホームから転落した経験があるのですが、その人は、「トイレを探していたんです。杖で点字ブロックをたどりながら歩いていたら、突然ブロックがなくなった。後は宇宙を迷っているようなものだった。あっと思ったときにはホームの端から落ちていた。幸い大した怪我ではなかったが、這い上がるのが大変だった。」と恐怖の体験を述べています。本件と同様に、点字ブロックがホームの終端部まで設置されていなかったために、ホームから転落した事故でした。その方は、これまで四回もホームからの転落を経験されており、「ブロックのないスペースをブロック外空間と呼びます。視覚障害者には恐怖の空間です。」「ここでブロックが途切れたら視覚障害者は困るだろうとか、この滑り止めは間違えやすくて危険だとか、目の見える人はあまり考えないのじゃないかと思うのです。」と訴えておられます。 このように、駅ホームの安全対策は、待ったなしの状態にあるのです。
 我が国の現状は、障害者にとって最低限保障されるべき安全性さえ確保されていないということを深く認識すべきであるということであります。

三 本件訴訟の意義について
 最後に本件訴訟の意義について申し述べます。
1 まず、大阪市営地下鉄を始めとする公共交通機関において、駅ホームから の転落事故といった視覚障害者の生命・身体を害する悲惨な事故が続発して おり、これが点字ブロックの敷設方法や防護柵の設置などの設備等の重大な 欠陥に起因していることを明らかにすることであります。        2 次に、視覚障害者が安全に公共交通機関を利用できるようにするには、  どのような人的・物的施設の設置や改善が必要なのかを明らかにし、これら の改善等の実行を促す契機にしたいと考えています。
3 第三に、本件事故が、まさに点字ブロック等の不備によって発生した事  故であって、大阪市の責任を明確にすることにより、原告が蒙った損害の回 復を図るとともに、本件事故現場の防護柵の設置など大阪市営地下鉄の各駅 の安全対策に抜本的な改善を迫るものにしたいということであります。
 裁判所におかれましては、右に述べた本件訴訟の意義を十分に認識して戴き、 充実した審理と適正なご判断をお願いする次第です。

以 上



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