平成13年(ネ)第3719号損害賠償請求控訴事件 控訴人 佐木理人 被控訴人 大阪市 準備書面(12) 平成14年3月25日 大阪高等裁判所第6民事部 D係 御中 被控訴人訴訟代理人 弁護士 飯田俊二(印) 同 川口俊之(印) 控訴人の2002年2月15日付け準備書面に対する反論 第1 控訴人の主張に沿って反論する。 1(1)控訴人の主張 控訴人は「平成5年7月2日に近畿管区行政監察局及び近畿運輸局から被控訴人に転落防止柵設置要求又は転落防止柵設置指導があった」かの如く主張する。さらに、「被控訴人の第1審における『転落防止柵の設置要求ないし設置指導を受けたことはない』との回答が虚偽であるとも主張する。 (2)反論 近畿管区行政監察局又は近畿運輸局から、設置要求も設置指導も受けていない。 近畿管区行政監察局は、近畿運輸局に対し、「視覚障害者の駅利用がより安全で容易に行えるようにする観点から、ターミナル駅において、ガイドラインに沿った施設の整備及びその他所要の対策を実施すること等につき、鉄道事業者に対して、さらに所要の検討を行うように指導する必要がある」と通知したのである。 すなわち、「検討を行う」様に指導するように通知したものであり、転落防止柵を「設置する」ように指導を要請したのではないのである。 (甲第51号証の2 5頁) 各鉄道事業者において、駅の立地条件、乗客数、駅の形状、ホームの形状、乗降客の流れ、ラッシュ時の混み具合、駅間の距離、駅間の列車の走行速度等を考慮して検討を行う様に指導要請をしたのである。 それを受けて、近畿運輸局は、被控訴人に「近畿管区行政監察局長から所見表示があったので、今後とも可能な限り、障害者等の鉄道利用に配慮した駅施設の充実に努められたい。なお、近畿管区行政監察局長から指摘のあった事項の整備改善計画等について、平成5年8月末日までに報告願いたい」と通知したのである。 近畿運輸局は設置要求も設置指導もしていないのである。指摘事項に対する検討要請をしたのである。 (甲第51号証の1) それに対し、被控訴人は「通常、過走余裕距離を考慮し、5m前後間隔をあけています。今後、立地条件に応じて検討してまいりたい」と回答したのである。 (甲第52号証 2枚目) 回答以後重ねて設置要請も報告要請もない。 もし、控訴人の主張するように「設置要求や設置指導」であれば、このような回答だけではおわらないのである。 なお、「立地条件に応じて検討してまいりたい」というのは、上記設置基準を墨守することなく、乗客数の変動、駅付近での視覚障害者の施設の設置状況、列車の制動能力の向上等の条件により設置基準を見直す用意の有ることを述べたにすぎないのである。 2(1)控訴人の主張 控訴人は、「原判決後、控訴人が行った調査により平成7年8月上旬複数の障害者団体から地下鉄駅ホームの点字ブロック及び転落防止柵の設置方法についての要望がなされていた事実が判明した」と主張する。 (2)反論 控訴人は2000年6月23日付け準備書面において「視覚障害者団体や公的機関から、一般的ないし具体的な転落防止柵設置の要望ないし指導」についての求釈明があった。そこで被控訴人は、調査の結果、公的機関からの転落防止柵設置の要望も指導もないこと及び視覚障害者団体からのそれらもない旨回答した(平成12年9月1日付準備書面6)。 控訴人からの平成14年1月7日付当事者照会を受けて、これに応じて被控訴人は視覚障害者団体に限らず広く障害者団体等との間に授受された文書や同団体との会議の議事録を交通局内外に照会収集して、2月12日に控訴人代理人に交付したものである。 その一部が控訴人の2002・2・15日付準備書面に採用する文書である。 その内容は、要約以下のとおりである。 @ 平成7年8月7日付け議事録 平成7年8月7日に芦原総合福祉センターで行われた全国障害者解放運動連絡会議関西ブロック大阪盲聾者友の会と被控訴人との話し合いの席上、同会の出席者から「点字ブロックの切れたところには安全柵がいる」旨の発言があった。 それに対し、被控訴人は「点字ブロックの終端には、警告点字ブロックを設けており、折り返してもらうようにしてある」とホーム縁端警告ブロックをホームから遠ざけるように屈曲させて警告・誘導している現状を説明している。 (甲第54号証 2頁) A 平成7年8月10日付け要望書 平成7年8月10日にアクセス55連絡会、誰もが使える交通機関を求める全国交通行動、DPI日本会議・大阪実行委員会の3団体が、エレベーター、車イス用トイレの整備をはじめとする18項目の要望の1つとして「点字ブロックはホームの端から端まで敷設し、ホーム両端には転落防止柵を設けること」との要望が出された。 (甲第56号証 2頁) a 被控訴人の回答 被控訴人は、各要望事項につき逐一現状の説明と将来の整備計画を詳細に回答した。 その中で、転落防止柵については検討の結果、「電車の先頭部では列車停止位置から前方5m、後尾については列車停止位置から後方1mの位置まで」は設置せずその他は順次設置すること、縁端警告ブロックについては、「安全柵外は途切れることなく」直線敷設するようにしたことを回答した。 (甲第57号証 10頁) b 文献等の見解 平成7年当時、広く購読されている公刊物、論文、文献等によって「点字ブロックをホームの端から端まで敷設し」、「ホーム両端には隙間なく転落防止柵を設置」していなければ視覚障害者のホームからの転落防止の設備として不十分であるとの見解は表明されていないのである。 見解の統一はなく、種々要素の考量が必要と考えられていたのである。 (控訴人の提出する本件事故前の文献にもその記載がない 甲第6,7,8,9,10号証) 東京女学館短期大学教授の麦倉哲氏の各種提言は、「95年から、視覚障害者の事故経験のヒヤリング調査を始めて、96年のときに現地調査」をしてはじめてその結論としてなされたのである。 (証人麦倉の証言36頁) c 被控訴人が転落防止柵の設置基準を変更した理由 被控訴人は、列車が停止位置より手前に止まった時には過走した時と異なり、時間をかけずにゆっくり前進して停止位置に停止させることができるので、「列車後部5mには転落防止柵を設置しない」ことにしていたのを「列車後部1mには転落防止柵を設置しない」ことにしたとしても、さほど列車の延着、乗客の混乱をぜしめることがないと考えて変更したものである。なお、列車前部については、過走の場合のバックには時間を要するので、列車の延着、ホーム上での乗降客の混雑が予想されるので、それを避けるため5mの範囲内の過走は列車をバックさせないで旅客が乗降できるように停止位置前方5mには転落防止柵を設置しない基準を維持したのである。 京都市営地下鉄が約3m基準を採用していることは、後記のとおり。 d 縁端警告ブロックのホーム終端での敷設方法の変更理由 縁端警告ブロックを線路と反対側に屈曲させる(屈曲方式)よりもホーム終端まで延長するほう(延長方式)が視覚障害者の安全対策として優れているか否かは不明である。被控訴人は、試みに従来の屈曲方式に加えて延長方式を採用したものである。 3(1)控訴人の主張 控訴人は、京都市営地下鉄の例と近畿日本鉄道の例を挙げて「平成7年の事故当事における被控訴人の視覚障害者の歩行の安全に対する措置は、他の鉄道事業者のそれと比べて、明らかに劣っていたものである」と主張する。 (2)反論 被控訴人の視覚障害者の歩行の安全に対する措置は、京都市営地下鉄、近畿日本鉄道と比べて決して劣っているものではない。 @ 京都地下鉄との比較検討 T 縁端警告ブロックの敷設方法の観点から a 平成6年3月の新ガイドラインの敷設方法 島式ホームについては、ガイドラインの姿図(甲第12号証53頁)や鉄道ターミナルモデル図(同99頁)によると、ホームを内側に囲い込むように縁端警告ブロックが設置されている。 相対式ホームの姿図やモデル図はないので、島式ホームのそれを参考にして敷設方法を決定せざるを得ない。 (甲第12号証) b 京都市営地下鉄の縁端警告ブロックの敷設方法 控訴人の主張するように使用ホームの終端から他方終端まで直線敷設されている(延長方式)。 (乙第64号証の1〜5) c 大阪市営地下鉄の縁端警告ブロックの敷設方法 本件ホームの縁端警告ブロックがホーム東端まで敷設されておらず、途中で線路と反対側である北に直角に屈折して敷設されていた(屈曲方式)。 前記のとおりガイドラインの姿図や鉄道ターミナルモデル図においては、島式ホームを念頭に置き、同形状のホームではホームの両側から線路への転落の危険があるので、縁端警告ブロックでホーム内側を囲むようにしている。 ところが、本件ホームは相対式ホームであるため、ホーム縁端と反対側から転落する危険がないため縁端警告ブロックでホーム内側を囲い込むまでの必要はなく、縁端警告ブロックを直角にホーム北端の壁面に延ばしたにとどめ、ホームを内側に囲い込むようにはなっていない。 縁端警告ブロックの屈曲により視覚障害者をホーム縁端と反対の方向に誘導すること及び縁端警告ブロックを踏み越えて同ブロックを触知できなくなったときには、直ちにその場で停止して白杖等で縁端警告ブロック又は誘導ブロックを探し、縁端警告ブロック又は誘導ブロックを触知することができれば、それに従って進み、縁端警告ブロック等を覚知することができなければその場で助力を求めて待つか、列車の進行音、構内放送、人の歩行音、列車の進行に伴う風の方向等で安全な進行方向を確認してから進むよう警告しているのである。 d 文献等による定見がない。 ホーム終端まで直線で縁端警告ブロックを敷設する方式(京都市営地下鉄の採用する延長方式)とホーム終端部手前で線路と反対方向に縁端警告ブロックを屈曲させる方式(大阪市営地下鉄の採用する屈曲方式)のどちらが視覚障害者に対するホーム縁端警告として優れているか、少なくとも本件事故当時までに文献等に定見がない。 (控訴人の提出する本件事故前の文献にもその記載がない。 甲第6,7,8,9,10号証) 証人村上は、延長方式と屈曲方式の優劣につき「それは想定でしょうか。今後そういうふうにするみたいなことを含めたことなのかによって、答え方が変わると思うんですね」と前置きをして「よっぽど、それが周知でもされた場合には効果があるかもわかりませんが、ただ、点字ブロックだけで、屈曲させずに直線的にするだけで問題が解決するとは思いません」と証言している。 (証人村上の証言45頁) e 他の鉄道事業者においても見解は区々であり、定見がない。 以下の縁端警告ブロックの敷設調査の結果からみて、他の鉄道事業者においても、延長方式が屈曲方式より優れているという見解に達していないことが窺われる。 (乙第28号証 近畿地方の鉄道の状況) (乙第31、33号証 東京都営交通の状況) (乙第34号証 帝都高速交通の状況) f 結論 a〜eの事実から見て大阪市営地下鉄の採用していた屈曲方式が京都市の採用していた延長方式と比べて著しく劣っていたとは言えないのである。 今後、視覚障害者の警告ブロックに対する認識を調査し、警告ブロックの触知・不触知の場合の視覚障害者の行動様式の調査、鉄道事業者の敷設方法の統一、統一後の視覚障害者への周知徹底が必要とおもわれる。 なお、大阪市市営地下鉄においても、現在模索中であるが、とりあえず屈曲方式をのこして且つ警告ブロックをホーム終端まで延長している。 U 転落防止柵の設置方法の観点から a 平成6年3月の新ガイドライン ホーム縁端と平行に設置する柵(転落防止柵)に関しては、特に記載がない。 (甲第17、18号証) b 京都市営地下鉄の転落防止柵の設置方法 列車の停止位置の前方約3m及び列車の後方停止位置の後ろ約3mには転落防止柵を設置していない。 (乙第64号証1〜4写真 乙第65号証 調査報告書) (乙第67号証 地下鉄協議会議事録) 控訴人の提出する京都市の雑誌には「プラットホームの遊休部分に安全柵を設置する」「ホーム未使用部分には、転落防止用に高さ1.1mの安全柵を設置した」とあるが(甲第58号証)、この遊休部分、未使用部分とは、列車の停止位置とその前方約3mと列車の後部停止位置の後方約3mを除いた部分のことである。 言い換えると、列車の停止位置前方約3m及び後方約3mはホーム使用部分と考えられて転落防止柵を設置していない。 京都市においても列車の過走を予測して、列車の停止位置前方約3mには転落防止柵を設置していないものと考えられる。 c 大阪市営地下鉄の転落防止柵の設置方法 列車の停止位置の前方約5mには転落防止柵を設置しないこととしている。 列車の後部停止位置の後方1mにも転落防止柵を設置しないことにしている。 d 3m基準又は5m基準の合理性 これらの転落防止柵を設置しない領域を設けているのは、列車過走時に列車を後退させることによるホーム上での乗客の混乱、混雑による乗客の線路への転落等の防止を目的とするものである。 この距離が約5mが相当なのか、それとも約3mで充分なのかについては、鉄道ごと駅ごとに検討を要する。 車両長、ホームの長さ・幅、乗降客数、駅間の距離、走行速度、ダイヤの密度等を考慮してきめなければならない。駅間の走行速度がゆっくりで、しかもホームが長ければ所定の停止位置に列車を停止させ易いのである。 駅間の走行速度が速く、しかもホームが短ければ列車を所定の停止位置に停止させるのが難しくなる。 駅間の走行速度は、乗客数により決まり、乗降客数が少ないと乗降に要する時間が少なくて済み、ゆっくり走行可能であるし、乗降客数が多いと乗降に時間がかかり、その分高速走行せざるを得ないこととなる。 ダイヤの密度も乗客数によって決まる。 また、ホーム長・幅については、駅の作られた時期、駅のある地理的条件等により決まり、一度できたホームの延長には長い工事期間と多大の費用を要する。 そこで、上記各種考慮要因のうち、一日の乗降客数、ダイヤの過密度、駅ができた時期、駅の改造に要する工事期間と金額から検討してみると 一日の乗降客数 平成6年度の京都市営地下鉄烏丸線のすべての駅の乗降客数は、203,000人である。 (乙第72号証 数字でみる鉄道 1995年版) 平成12年度の京都市営地下鉄の最も乗降客数の多い京都駅で、105,267人である。全ての駅の合計でも452,569人である。 (乙第66号証) 平成6年度の大阪市営地下鉄御堂筋線のすべての駅の乗降客数は、1,411,000人である。 (乙第72号証) 平成8年の大阪市営地下鉄御堂筋線天王寺駅の乗降客数は、204,050人である。 (乙第7号証) ダイヤの密度 平成14年の京都市営地下鉄のダイヤは、午前8時25分と同28分が3分間隔になっているだけで他はすべてラッシュ時でも4分以上の間隔となっている。 (乙第64号証の6 写真) 平成7年の大阪市営地下鉄御堂筋線のラッシュ時のダイヤは、2分から3分間隔になっている。 (乙第3号証) 駅ができた時期 京都市営地下鉄は昭和56年に開通している。 大阪市営地下鉄御堂筋線天王寺駅は、昭和13年4月にできている。 (乙第68号証) 駅の改造に要する工事期間と金額 京都市営地下鉄のそれらは、判らない。 大阪市営地下鉄の御堂筋線梅田駅、御堂筋線難波駅、堺筋線南森町駅については、乙第13号証のとおり。 これからみて、大阪市営地下鉄の方が京都市営地下鉄に比べてダイヤの密度が高いのでダイヤの乱れが生じ易く、かつ、ダイヤの乱れが生じたときには乗降客数が圧倒的に多いのでホーム上の乗降客の混乱も大きいことが容易に予測できる。 さらに、大阪市営地下鉄の駅が京都市営地下鉄の駅とくらべて作られた時期が古く現在の乗降客数の増加に充分対応できる長さと幅のホームに改造するには時間と費用と地権の制限があり、すぐにはできないことがわかる。 d 結論 a〜cの事実からみて、大阪市営地下鉄の転落防止柵設置基準が京都市営地下鉄のそれとくらべて不合理または劣っているとは言えないことが判る。 A近畿日本鉄道との比較検討 I 縁端警告ブロックの敷設方法の観点から 平成11年においてもホームの終端から終端まで敷設されておらず、途中で線路と反対側に屈曲させている(大阪市営地下鉄と同じ屈曲方式)。 (乙第28号証No.37〜44写真) II 転落防止柵の設置方法の観点から 平成11年においても転落防止柵は、全く設置されていない。 (乙第28号証No.37〜44写真) III 視覚障害者への対応マニュアルの観点から 大阪市営地下鉄の一声かけ運動とほぼ同じである。 IV I〜IIIの事実からみて、平成7年当時でみても「被控訴人の安全に対する措置が近畿日本鉄道と比べて明らかに劣っていた」とは決して言えないのである。 B東京都営地下鉄との比較検討 I 縁端警告ブロックの敷設方法の観点から 平成11年においても調査した範囲ではすべて屈曲方式を取っている。 (乙第31号証No.87〜130) II 転落防止柵の設置方法の観点から 平成11年においても調査した44ヶ所のうち33ヶ所には全く設置されていなかった。 (乙第31号証No.87〜130) 列車の先頭位置より6m以上の間隔があるのに転落防止柵が設置されていなかったり、設置されていても線路と平行の長さがなく実質的には立ち入り禁止柵と考えるべきものも多く見られた。 III I〜IIの事実からみて、平成7年当時で見ても「被控訴人の安全に対する措置が東京都営地下鉄と比べて明らかに劣っていた」とは決して言えないのである。 C帝都高速交通営団との比較検討 I 縁端警告ブロックの敷設方法の観点から 平成11年においても、屈曲方法をとっているもの、反対に線路側に屈曲しているもの、延長方式をとっているものが併存し、ホーム終端部における縁端警告ブロックの敷設方法は一定していない。 (乙第32号証) II 転落防止柵設置の観点から 平成11年においても調査した47ヶ所のうち、31ヶ所には、全く設置されていなかった。 (乙第32号証No.131〜202) 列車の先頭位置よりも7m以上の間隔があるのに転落防止柵が設置されていなかったりもした。 III I〜IIの事実からみて、平成7年当時でみても「被控訴人の安全に対する措置が帝都高速交通営団と比べて明らかに劣っていた」とは決して言えないのである。 D名古屋市営地下鉄との比較検討 I 縁端警告ブロックの敷設方法の観点から 平成7年において「ホーム中央部に階段のあるホーム又は中央部一方の端部に階段のあるホームで、利用客が当面使用しなくてよい部分において、列車停止位置から5mの余裕を取り、利用客の進入防止のため、視覚障害者用点字タイルをホーム横断方向に2列貼りしています」 (乙第67号証) II 転落防止柵設置の観点から 平成7年において「列車停止位置から5mの余裕をとり、利用客の通行に供する軌道側縁端部に設置している」 (乙第67号証) III I〜IIの事実からみて、平成7年当時でみても、「被控訴人の安全に対する措置が名古屋市英地下鉄と比べて明らかに劣っていた」とは決して言えないのである。 E平成7年1月11日の中央線深江橋駅の転落事故と本件事故の相違 平成7年1月11日の中央線深江橋駅の事故は、「当事者が点字誘導ブロックを見失ったことが直接の原因であったと思われるが、乗車駅から降車駅に連絡があれば防げた」と会議で集約されているとおり、乗車駅から降車駅への連絡漏れが事故防止ができなかった理由と考えられる。 堺筋線本町駅の駅員が晴眼者の介助を受けていない?訴外?田村氏から中央線深江橋駅まで行くことを聞いていながら、同氏が白状を巧みに使っていたので大丈夫と軽く考えて深江橋駅へ連絡しなかったものである。 それに対し、本件事故は、控訴人が梅田駅で列車に乗車するまで晴眼者の介助を受けており、且つ駅員から控訴人への介助の提案も控訴人から駅員への介助の要請もなかったケースである。 したがって、両事故は異なる。 F?控訴人は、平成7年3月9日の会議の席上でのマニュアルの交付? 控訴人は、平成7年3月9日の会議の席上での視覚障害者に対するマニュアルを被控訴人に交付した」と主張されるが、当日の会議の議事録には「視覚障害者に対してもマニュアルを早急に作成し、徹底するべきではないのか」との発言があったことが記載されているだけで、マニュアルの交付を受けた旨の記載がない。 記載がないことからみて、マニュアルの交付は受けていないのではないかと思われる。 なお、被控訴人は平成7年6月26日から同年7月5日に財団法人大阪市身体障害者団体協議会から講師の派遣を受けて「目の不自由な方の手引きのしかた」の研修を行っている。その際の資料は、同財団の監修を受けたものであり、上記会議の席上交付を受けたマニュアルではない。 (乙第59号証の1 研修案内) (同の2 研修資料) 4(1)控訴人の主張 控訴人は4件の事故がいずれも本件事故と類似すると主張する。 (2)反論 控訴人の主張する4件の転落事故の類似点はホーム終端部において発生したということだけであり、事故に至る経緯、原因は以下のとおり全く異なるのである。 @平成4年7月3日の事故は、盲導犬の誤導によって起こったものである。 A平成6年2月15日の事故は、内容は不明である。 同事故の被害者は、現在では「ホーム南端の壁を階段の裏と勘違いして回り込もうとして線路に転落した」と言われているようである。 しかし、その被害者は事故直後にはそのような話はしておられなかった。 (甲第15号証の2 No.16) しかも、御堂筋線長居駅下りホーム上には突出した階段はなく「階段の裏の壁」もないのに、なぜ「階段の裏の壁」と勘違いされたのか不可解である。 (乙第70号証 御堂筋線長居駅乗降場平面図) (乙第71号証1〜5 写真) 本件事故との類似点を無理に作出しているように思われる。 なお、平成6年2月15日ころ同駅の下りホーム南端と列車の先頭停止位置との間には5mの間隔がなかったので転落防止柵を設置していなかった。その後平成7年12月9日に10両編成とするに及びホームを改造して北へ延びたため、ホーム南の終端部と列車の停止位置との間に5m以上の間隔ができたので、そのときに転落防止柵を設置したものである。 (被控訴人の平成12年4月10日付け準備書面四の15頁に主張のとおり) B平成6年12月5日の事故は、いつもは使用している白状を事故時には使用していなかったため周囲の状況把握が不十分であったことにより起こったものである。 C平成7年6月24日の事故は、視覚障害者がホーム縁端と縁端警告ブロックの間のホーム縁端よりを歩行していて転落したものである。 5(1)控訴人の主張 控訴人は、「列車の後退措置によってホームが混雑する事態が生じたとしても、改札制限、入場制限で対処可能であり、5m基準は的外れな議論である」と主張する。 (2)反論 高速、大量、安全、且つ円滑な輸送を確保するには、まず列車を定刻どおりに運行させ多くの旅客が短時間にスムーズに列車に乗降して、ホームが乗降客で異常に混雑する事態を発生させないこと必要である。 5m基準は、異常に混雑する事態を発生せしめる原因をそもそも作らないようにするものである。一つの原因除去処置をとっていても、何らかの原因で異常に混雑する事態が発生することはある。 そのような時には、被控訴人は臨機応変に改札制限、入場制限を行い、乗降客が列車と接触したり乗降客がホームからあふれて線路に転落することがないように最善の努力をしている。 それによって、接触・転落事故をかろうじて防いでいるのである。 改札制限、入場制限措置があるからといって、5m基準が不要になることはないのである。 このことは、京都市営地下鉄において、約3m基準を、名古屋市においても5m基準をとっていることからも窺い知ることができる。 (乙第67号証 第48回地下鉄協議会議案並びに資料) 第2 2002年3月11日付け控訴人の求釈明に対する回答 1 転落防止柵、立ち入り禁止柵および縁端警告ブロックの設置基準の変更について (1)被控訴人営業課において、平成7年6月24日に発生した谷町線天王寺駅下りホームからの転落を踏まえて、事故防止柵の検討を行った。 会議は同年の7月10日、7月11日、7月13日と行われた。 営業課において、ハード面とソフト面の事故防止策が決定された。 (乙第60号証) (2)決定した事故防止策のうち、営業課単独でできる「駅職員への指導徹底」を平成7年7月13日に行った。 (乙第38号証 「視覚障害者への対応について」と題する書面) (3)決定した事故防止策のうち、技術部門との協議を要する「転落防止柵、立ち入り禁止柵および縁端警告ブロックの設置」については、技術部門との協議にはいった。 残っている書類によると、技術部門との協議は同年の8月14日、同月17日に行われ、1号線は10輌化する平成7年12月に工事を行い、3号線は6輌化する平成8年中に行う等の細部が決定した。 (乙第61号証 ホーム安全柵等打ち合わせ議事録) このようにして、平成7年8月終わりか9月始めに技術部門を含めた最終決定がなされたのである。 2 なお、被控訴人はこのような検討を進める一方、平成7年10月に行われることになっていた地下鉄業務協議会に大阪市地下鉄の転落防止柵・立入禁止柵設置旧基準を報告し、他の地下鉄事業者の基準についての情報を入手した。 (乙第67号証 第48回地下鉄業務協議会議案並びに資料) 3(1)乙第40号証の出典と作成時期 出典 乙第60号証添付図面 乙第61号証添付図面 作成時期 平成12年6月26日ころ裁判所提出用にわかりやすくするため、上記図面を清書したものである。 (2)乙第43号証の出典と作成時期 出典 工務課営繕係に保管されていた「ホーム立入禁止柵設置基準」 (訴訟外で控訴人代理人に交付する) 作成時期 平成12年9月1日ころ裁判所提出用にわかりやすくするため、上記図面を清書したものである。 (3)乙第47号証の出典と作成時期 出典 工務課営繕係に保管されていた「標準図」2枚 (訴訟外で控訴人代理人に交付する) 作成時期 平成12年11月27日ころ、裁判所提出用にわかりやすくするため、「標準図」を集成したものである。 (4)乙第48号証の出典と作成時期 出典 工務課営繕係に保管されていた「標準図」3枚 (訴訟外で控訴人代理人に交付する) 作成時期 平成12年11月27日ころ裁判所提出用にわかりやすくするため、「標準図」を集成したものである。 4 駅ごとの工事開始日と完成日 基準変更に基づく工事だけを行ったものはなく、それを含むが他の工事と共に行われている。 用語の注意 下記書類上は、本件訴訟で「転落防止柵」「立入禁止柵」と定義したものは、それぞれ「安全柵」「転落防止柵」と記載されているのでそのように読み分けられたい。 (1)工程表 乙第62号証の1 1号線輸送力増強に伴う各線安全施設改造その他の工事実施工程表 乙第62号証の2 高速各駅安全柵設置その他工事(2、3、6号)工事工程表 乙第62号証の3 高速各駅安全柵その他工事月間予定表(4号線) 乙第62号証の4 同(5、7号線) 乙第62号証の5 R3輸送力増強に伴う安全柵等整備工事工程表 (2)工事台帳 乙第63号証の1 平成7年度工事台帳 乙第63号証の2 平成8年度工事台帳 工程表に対応する工事台帳の記載部分は、黄色のマーカーで指摘する。 (3)設計書 工事台帳記載の工事番号にかかる設計書については、現在残っているものは、訴訟外で控訴人代理人に交付する。 なお、御堂筋線天王寺駅と堺筋線日本橋駅にかかる部分には、付箋を付けかつ、関係箇所を黄色のマーカーで指摘する。 5 堺筋線日本橋駅1番及び2番線のホーム終端部の転落防止柵の設置時期については、年月日では正確に特定できない。 工事工程表では、平成8年3月12日から同月13日に安全柵(本件訴訟で定義する「転落防止柵」)の工事が行われることになっている。 (乙第62号証の2 工事工程表の日本橋駅欄) しかし、工事工程表は一応の予定表にとどまり、その日時に工事が正確に行われたか判らず、その頃という程度のことしかいえない。 工事竣工検査も工事期間終了日に行うので、正確には工事台帳の期間で把握するほかないのである。 6 堺筋線南森町駅1番線のホーム終端部の転落防止柵の設置時期については、期間でしか把握できず年月日では特定できない。 堺筋線南森町駅は、東西線の開通にともない大改造を行っているので、現在ある転落防止柵はその工事の中で設置されたものであり、工程表(乙第62号証の2)、工事台帳(乙第63号証の1、2)、設計書(訴訟外での交付)に記載がなく設置時期の特定はできない。 南森町駅の改造期間は、平成6年10月24日から平成9年2月28日である。 以上