平成一一年(ワ)第三六三八号 損害賠償請求事件                原 告   佐  木  理  人                被 告   大阪市                  準 備 書 面(第七回)    二〇〇〇年一二月四日              原告訴訟代理人                弁護士   竹下義樹                          同     岸本達司                          同     神谷誠人                          弁護士   坂本 団                          同     下川和男                          同     高木吉朗                          同     山之内         桂                同     伊藤明子           大阪地方裁判所              第一七民事部合議イ係              御 中 記 第一 被告の主張に対する反論  一 原告の過失について   1 被告は、天王寺駅一番ホームの降車位置を特定して歩行していた原告 としては、降車後に適正な歩行方法をする義務だけでなく、乗車におい て既にその位置を確認しておくべき義務が存したところ、これを怠り、 その後の事故の発生を惹起したものであると主張する。   2 しかし、原告が、梅田駅における乗車位置を一応決めて乗車し、天王 寺駅のB階段の西側(梅田方向)に降車し、B階段を上って改札口に出 ていたとしても、それはホームにおける歩行距離をできるだけ短くし、 迷うことなく改札口へ向かう階段に至るためであった。晴眼者において も通勤や通学の際に、改札口に至る階段付近に降車できるように乗車位 置を決めて、乗降することはよく見受けられるところである。     このように、しばしば同じ駅を利用する場合、電車の乗車位置を決め るのは、電車の降り口から改札口までの歩行距離や所要時間をできる限 り短くするという便宜のためである。     したがって、視覚障害者であれ、晴眼者であれ、自らの便宜のために 乗車位置を決めて乗降しているのであるから、視覚障害者についてのみ、 乗車位置を確認すべき義務を負うという根拠は見出せない。   3 被告の主張を前提とすると、視覚障害者には、電車の降り口から改札 口に至るまでのホーム上の歩行経路を確認しておく義務があり、そのよ うな確認をしておかなければ鉄道を利用できないことになってしまう。  しかし、これでは、視覚障害者が、初めて利用する駅において乗降す ることも否定することにつながるから、視覚障害者の行動を不当に制約 する結果になることは明らかである。     駅ホームには警告ブロックや転落防止柵が適切に設置されるなど安全 が常に確保されていなければならず、視覚障害者としては、乗車位置や 歩行経路がいつもと異なったり、改札口に至る歩行経路が不明であった 場合でも、安全が確保されており、転落することはないと信頼すること が当然許されるのである。     よって、原告が、いつもと違う位置に乗車したり、乗車位置を確認し ないまま乗車しなかったことが落ち度になるとする被告の主張は、自ら の安全性確保義務違反を棚に上げた責任転嫁も甚だしい暴論というほか ない。  二 点字構内案内   1 被告は、原告が利用前に点字構内案内(乙四四)により天王寺駅構造 を把握していなかったことを批判し、この点について、原告に落ち度が あったと主張するようである(被告準備書面六・六頁)。     しかし、右主張も、駅ホームの構造を確認しておかなければ、鉄道を 利用してはならないという視覚障害者に不当な義務を課すものというほ かなく、到底受けられない。点字構内案内により、駅ホームの構造を確 認して地下鉄を利用する視覚障害者は、決して多数とはいえない。     そもそも、駅ホームの安全性は、その構造を確認していない視覚障害 者が利用することを前提として、確保されていなければならないという べきであるから、駅ホームの構造を確認していなかったことを落ち度と 評価することは許されない。   2 しかも、被告が作成していた点字構内案内(乙四四)には、点字ブロッ クの敷設位置や転落防止柵の設置位置などについては記載されていなかっ た。     したがって、原告が、点字構内案内を使用していたとしても、ホーム 終端部の縁端警告ブロックが途切れていることや転落防止柵が設置され ていないことを知ることはできなかったから、ホーム終端部に右のよう な危険な箇所があることを認識することは不可能であった。  三 点字ブロックの敷設方法の変更    被告は、平成七年九月にはホーム上の警告ブロックを壁や柵まで延長す るように敷設方法を変更したことを認めた(被告準備書面七・二頁)。    この敷設方法の変更は、ホーム終端の警告ブロックが途切れると、そこ から視覚障害者が転落する危険があることに鑑み、警告ブロックを壁や柵 まで延長して敷設するようにしたことは明らかである。    すなわち、右変更は、従来の敷設方法に安全上問題があったことを自認 するものというべきである。    まさに本件では、右敷設方法変更の決定後、実際に変更工事がなされる までの間に、ホーム終端の警告ブロックが途切れ、警告ブロックも転落防 止柵もない部分から原告が転落したのであるから、被告において、本件の ような事故が発生することは十分に予見できた筈であり、また、ホームの 設置管理に瑕疵があったことも明白である。        第二 求釈明の申立て  一 従前提出された事故報告書に含まれていない転落事故についての事故報 告書の提出    この度、被告から提出を受けた視覚障害者の転落事故報告書には含まれ ていない転落事故の情報が次のとおり寄せられた。    @ 平成八年九月二六日頃、視覚障害者の女性が、御堂筋線あびこ駅ホー ムから転落し、右肋骨骨折等の傷害を負った。    A 平成八年一二月四日頃、御堂筋線なかもず駅ホームから転落し、軽 傷を負った。    右各事故の発生について確認の上、事故報告書が作成されているのであ れば、提出されたい。右各事故を認知しながら、事故報告書が作成されて いないのであれば、その理由を明らかにされたい。  二 各駅に保管されている事故報告書の提出    被告が提出した視覚障害者の転落事故報告書は、交通局に送付されたも のであり、駅に保管され、交通局に送付されてない事故報告書が存在する ようである(被告準備書面六・一〇頁)。したがって、大阪市営地下鉄にお ける視覚障害者の転落事故の全容を解明するためには、地下鉄の各駅に保 管されている事故報告書についても提出される必要がある。     よって、右1の事故報告書のみならず、地下鉄の各駅に保管されている 事故報告書もすべて提出されるよう求める。 第三 立証計画  一 人 証   1 視覚障害者の歩行特性に関する専門家証人  一名   2 視覚障害者にとっての駅ホームの危険な現状と安全性に関する専門家 証人                   一名   3 原告本人  二 検 証(体験的検証を含む)    その実施方法については、裁判所・原被告間で協議したい。                                                        以 上 2 1